ACT.1 独白
Ep.07 窪塚珱の場合
スタジオに入ると、斎が嬉しそうな顔で近寄ってきた。やばい。というか、うざい。斎がにこにこしてる時は絶対テンション上がったまま機関銃みたいにしゃべり続けるから、顔を見るだけで逃げたくなってしまう。
「珱、ホラこれ」
「ナニ」
渋々目を向けて、息が止まった。
「ウソ、マジ……? これ廃盤になった『ZMZ』のファーストやん……」
「正確に言うとインディーズのファースト、でーす」
斎の目が得意げに光る。えらい?って感じで三日月型に細くなる。俺の心臓がどきどきいってるコトはお見通しってわけ。
「どうしたん、コレ。発売期間メッチャ短かって俺、買えへんかって……」
「メジャーデビューしてから、もっかい出したじゃん」
「ちゃうねんて。こいつらメッチャこだわってて、インディーズ時代のアレンジは一切使わんと新しく録音してんねん。全然違うねん」
「先輩がサ、このCDの話してるの思い出して聞いてみたわけ。なんか昔、兄ちゃんか姉ちゃんがメンバーと知り合いだったとか言って。しばらく借りといていいってさ」
ということは、俺のためにわざわざ人から借りてきたっての?
浮かれてた気持ちがグラグラ揺れた。
どうしてコイツは俺のためにそんなことする?
「……やっぱ、いいわ俺」
思わず顔が下を向きそうになって、慌てて顎に力を入れる。こんな顔ヒトには見せられない。こんな、感情を押さえられないで、むき出しにする自分。
「あ?」
「人のもん、勝手に借りれへん」
「可愛くねぇーっ!」
斎がカーッと歯を剥いた。
「お前のそゆとこ、絶対変! いいじゃん、貸してくれるって言ってンだから。好きなんだろ、このバンド。前にすっげー嬉しそうに話すからずっと覚えてたんだから。コウイウのは遠慮するときじゃないぞ!!」
後ろで黙って聞いていたらしいサイドギターの高崎さんが、ププッと吹き出す。そっちにも「うっさいです」と歯を剥いて、
「これごと借りんのが嫌ならMDに落としてきてやるから。それならいい? 明日まで待てる?」
どうしていいか分からなくて辛うじて首を縦に振ったら、斎が満足げにフフフ、と笑った。腹が立つやら恥ずかしいやら。
でも一番は素直に嬉しかった。
話に一応決着が付いたのを見計らって、高崎さんが近づいてきた。
「俺は『Secret Signs』のキャンペーン限定マキシ、持ってるぞ?」
思わず反応する自分が情けない。
『ZMZ』も『Secret Signs』も系統が一緒だから、好きなヤツにはすぐ分かる。両方俺が好きなバンドで、変わったことばっかして手に入れられないものが多いのだ。
思わず斎を振り返って、見た。斎はものすごい恐い顔をして『絶対借りなさい』って目で俺を睨んでいた。
翌日、俺の手元に思いがけない宝物がふたつ降ってきた。
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