ACT.4 snow drop
Ep.19 瀬田斎の場合
バレた。
とうとうバレた。珱に、俺の本当の年齢が。
いつまでも隠し通せることじゃないし、いつかは話さなきゃならないことだったんだけど…………こういう形でバレるのは、ケッコウ最悪かも知れない。
俺と珱は当たり前のように自転車に二人乗りで、真っ暗な住宅街を走っていた。息をする度に冷たい空気が肺に入って、中身が凍りつきそうになる。
それに寒いのは、気温のせいばかりじゃないのだ。スタジオの帰りに飯田さんが思いきり口を滑らせてから今まで、珱は一言も喋ってない。あともう少しで俺の勉強部屋に辿り着くっていうのに、だ。二ケツするために毎度毎度借りてくるお袋のオシャレバイクが、今日に限ってペダルが重い。重すぎる。
言い出せなかったのは、はっきり言って怖かったから。
珱とほんとの意味で気持ちが繋がって、嬉しくて、でもそこで俺は考えた。実は俺が珱よりもうんと年下だって分かったら、やっぱり珱は引いちゃうんじゃないかって。
ふたつとか三つとかの年齢差はデカい。高校生と中学生の差はもっとデカい。
珱は大人で俺は…………珱を大事にしたいって思う心だけは誰にも負けないつもりでも、中学生っていうだけで実際にはそんな力なんか全然無いって、誰かに言われてる気がする。
だから、言えなかった。後悔してももう遅い。俺はバカだ。大バカだ。
本当なら怒って帰ってもいいはずの珱は、さっきの飯田さんの暴露について問い質すわけでもなく黙ったまんま、自転車の荷台に乗っかって一緒にマンションに向かってる。
何にも言わないのは呆れてるから?
俺の年なんかどうでもいい? 興味ない? それとも…………
ダメだ、黙ってるのは性に合わない。
「珱っ」
真夜中なのにこんな大きな声出して、また珱に怒られる。でも止まんねぇ。
「ゴメン! っていうか、俺、ホントに中学生なんだけど、嘘つこうとか思ったワケじゃなくて」
自転車を漕ぎながらだからタイミングが合わなくて、言葉が途切れ途切れになる。最初からこんな調子で上手く言えるのかな、俺?
もうすぐ公園にさしかかる。今は時間が時間だから人っ子ひとりいないけど、幼稚園に隣接する、ここらのパパママ子供が集う場所。あそこを過ぎたら家はもう目の前だ。
昼間はそうも思わないのに夜になるとなんだか質量を増すような、鬱蒼と茂った並木の脇を通り過ぎる。
「と、年下とかだとやっぱ、相手にしてもらえないかな、とか思ってっ」
全然違うぞ?
俺、忘れてたもん、珱が年上だってコト。第一好きになったときに年なんか知らなかった。聞いたこともない。どこに住んでるのかすら知らない。
そんなこと思いつくヒマもないくらい、好きになっちゃったんだから。
「そうじゃなくって、だからっ、」
言わなきゃ、ちゃんと。だってコレが一番大事。
これ以外に大事なことなんてあるかよ!!
「そういうこと全部忘れちゃうくらい、オマエのこと、好きっ…………」
突然、俺の着てるブルゾンが後ろに伸びた。
違う? あれ? 引っ張られ…………
スピードを上げて走っているはずの自転車が空を飛んだ?と思ったら、グラリと視界が揺れて、見る見る世の中が横倒しになっていく。
そのままポーンと空中に投げ出されて…………気がついたら俺は地面に倒れていた。
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