ACT.4 snow drop
Ep.18 窪塚珱の場合
スタジオを出ると真夜中だった。
つい熱が入りすぎて、『スパークス』の終業時間なんかとっくに過ぎてる。ここの親父さんは『JUDE』には特別に甘いから延長料金も取らないし、あれでよく経営が成り立ってるといつも不思議に思う。
スタジオの玄関を開けると、先に出ていた斎と飯田さんが夜中だというのに大きな声ではしゃいでいた。
「なに、またお前ら一緒に帰るわけか?」
「いいじゃないすか、仲良いんです〜」
斎、お前ソレ、その喋り方やめろ。
「なんつーかお前らって、普通に考えると仲良くなるタイプじゃなさそーに見えるけどなあ」
飯田さんは不思議そうな顔で、斎と俺の顔を交互に見比べている。
「だいたい窪塚の家ってドコよ?」
「知らない」
「マジで?」
「聞いたことないよな? そういえば」
斎がきょとんとした顔で振り返って俺を見る。そうだな、俺も言った覚え、ないよ。
「おまえら、なんかヘン。仲良いっつったら、もうちょっといろいろ知ってない? 年も違うくせに気ィ合ってるみたいだしよ」
飯田さんが心底呆れたような声を上げた。
「ちょうど兄ィと斎の真ん中ぐらいだから、窪塚は斎のこと、弟みたいに……」
「あーっっ!!!」
心臓が止まるかと思った。斎の大声にびっくりしたワケじゃなくて……
『JUDE』の中で俺はずっと、斎と同い年で通してきた。少なくともはっきりしたことを言わないように曖昧に誤魔化して、そんなようなものと思わせてきたはずだ。
言い出すタイミングをいつのまにか逃したまま、斎にすら俺が本当は中学生なんだってこと、まだ言ってない。言うはずがない。
それを、なんで飯田さんが知ってるんだ?
――――――いや、ちょっと待て。
飯田さん、アンタ今、なんて言った?
「誰が、誰の弟みたいやって…………?」
「……まさか、ソレも知らなかった?」
「『それ』って、なんですか?」
一瞬で後ずさった斎の泣き声が遠くで聞こえる。「飯田のバカーっ」とかなんとか、そんなようなことを言ってるみたいだったけど、その声は俺の耳を一瞬も止まらずに右から左へ抜けていった。
俺はもう一度、飯田さんの顔を正面から見据えた。これで相手は逃げ出せなくなったはずだ。当たり前だ、逃げられてたまるか。
飯田さんはとうとう覚悟を決めたらしい。何とも情けない顔で口を開いた。
その瞬間、笑い出さなかったのが自分でも不思議なくらいだ。
「斎って……中学2年、14なんだってこと…………」
まさか………………冗談、だろ?
Back Next