ACT.3  Love You, Love Me

Ep.13  瀬田斎の場合

「だめだね〜、ありゃ……」
「はい?」
 思わず吐いたため息に、カウンター越しの店員が首を捻って聞き返した。
「あの……ご変更ですか?」
 俺は慌てて首を横に振った。
「あ……いや、ゴメン。そんでいいです。あとオレンジジュース……Mサイズ」
 店のお姉ちゃんは変な顔をすることなく、愛想良く注文を繰り返した。
「かしこまりました。ダブルチーズバーガーお一つ、月見バーガーお一つ、オレンジジュースMサイズお一つ、以上でよろしいですか?」
 矢継ぎ早にここで食べるか、会計はいくらだ、と言う店員に適当に返事をしながら、俺は頭で全然別のことを考えていた。
 珱の言葉を飲み込んでしまう癖のことは、何となく分かってる。多分そうなんじゃないかって、思うからなるべく俺から言ってやるとか気長に聞き出してやるとか、出来る限りのことをしてやりたいと思う。さっきだってそうだ。
 無理しなくていい。少しずつ言いたいことを口に出来るようになればいいってそう思ってるのに、珱はやっぱりああやって戸惑うような表情を見せる。
 珱がなんだか考え込んでるのが分かって、それを中断させるために強引に席を立ったんだけど、いざ傍を離れると本当にそれで良かったのかどうかすら自信がなくなってくる。
 言葉が足りないのかな、とも思う。だけど、正直いってこれ以上どうしてやれば珱の気が済むのか、俺には全然分からないのだ。要するに俺が『好き』とか告ったくらいで解決するような、そんな単純なものじゃないって訳だ、珱の心のモンダイは。

 どうしてやればいいんだろう。
 わからなくて情けなくて、うわーっと叫び出したくなる。
 こんなに好きなのに。こんなに大事に思ってるのに、伝わらないなんて。

「お待たせいたしました」
 俺を現実に引き戻す、有無を言わさぬ明るい声。見ると姉ちゃんがにっこり笑って俺を見ていた。手提げ袋をグイっと持ち上げて、俺の目の前に突き出している。しばらく考えて、ここで食うといったはずの俺のハンバーガーが厳重に紙袋に入れられて、お持ち帰り用にされたんだってことに気が付いた。
 俺はますます途方に暮れた。



 席に戻ると、珱は机に片肘をついて外を見ていた。なにを考えているのか、その後ろ姿は俺になんにも教えてくれない。
 ふと大声を出して、振り向かせたい衝動に駆られた。
 強引に振り向かせて、力一杯抱きしめて、思いっ切りキスしたい。 胸を真一文字に切り裂いて、俺の心の中を珱の目の前に広げられたら、少しは伝わるのかな?
 もしそれで伝わるのなら、俺はその場で死んだって構わない。死ぬ前にもう一回、店でしたみたいなキスが出来たらいい。
 伝わればいいのに。俺のいっぱいの『スキ』が、珱の心をいっぱい満たせばいいのに。
 こんなことばっか考えて、でも全然思うようにはいかなくて、なんか泣きそうになる。悲しいわけじゃないのに。


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