ACT.1  独白

Ep.01  窪塚珱の場合

 出会ったのは中学んとき、俺が学校をドロップアウトして、外で遊びはじめて少し経った頃。
 もうすぐ15になる……あのころが一番サルみたいで、自分ひとりではなんにも出来ない無力さばっかりが身に染みて……だからあいつに会ったのは、今思えば神様の奇蹟だったのかもしれない。


 ちょうどそのころ家の中は最悪の状態で、まぁ原因は俺だったんだけど、母親は生まれたばっかの弟の育児で手一杯だし、義父は俺の顔を見れば怒鳴るか考え込むかしかしなかったし、いつのまにか家に俺の居場所が無くなってた。
 学校サボってなんとなくゲ−センとかで遊んだりしてるうちに知り合った人がライブハウスに連れていってくれて、そこで『うたをうたう』ってことを知った。なんとか自分でも『歌いたく』なって、歌える場所を探したりして……でもやっぱりここでもあまり上手く行かなかった。俺はどこに行っても明らかにみんなとどこかが違ってた。
 ドコが違うとかココが違うとか言い当てられれば、少しはマシだったのかも知れないが、
 ……たぶんそれは目に見えるコトじゃなかったんだと思う。居場所を探して暗いところをうろつくサルは人に嗜虐のココロを育てるみたいで、俺はよくいろんな所で痛い目に遭ってた。
 最初は転校先の学校で、関西弁がなんかムカツク、とか言われた。
 オヤが見栄だけで無理矢理入れたお坊ちゃんばっか通ってるガッコウで、そりゃもうみんな激しくコテコテの関東弁で、関西弁の直らない俺はとにかくやたら、めっちゃ浮いてた。最初は気にしてなかったけどそのうちクラス中があれこれ難癖つけてくるようになって、うざくなって、ガッコウに行かなくなった。 成績よかったからかも知れん、てことはあとから気がついたけど、そのときにはもう、そういう問題じゃないところまで来てて、俺自身そんなことは正直どうでもよかった。
 その次はライブハウスで。
 俺のこと気に入ってバンドに入れてくれたのはいいが、そこにはすでにヴォーカルがいて、ソイツと半年近く揉めまくって結局そのバンドは解散した。その半年の間にそりゃぁもう、大人気ないこといっぱいやられた。最後はなんか、俺が悪いみたいなことになって。
 で、そのライブハウスに顔出せなくなっちゃって、フラフラしてる時に会ったんだ。あいつに……瀬田斎ってヤツに。

 

 

「アンタさ、前に "glow" ってバンドで歌ってなかった?」
 ひとりでカウンターに座ってウーロン茶、なんぞを啜ってた俺にそいつは声を掛けてきた。なんせ未成年だってことはバレバレだし、さすがにどこの店も俺にアルコールは出してくれない。追い出されないだけでもありがたく思えって感じで。俺はそこでもやっぱ浮いていて、早く帰れてな視線が背中にグサグサ突き刺さってた。
 とにかくそんなだったから、えらく驚いたのを覚えてる。勇気のある奴だなって。
 一目見て同い年くらいかな、って思った。
 キャップを目深に被って低い声で、でも目は俺に据えられてるのがわかる。同い年ってのは俺が夜遊びする時に名乗る年齢くらい……三つくらい上ってことだ。
「知らん。誰かと勘違いしてんのやろ」
 俺は出来るだけ素っ気無く言った。前のバンドの名前なんか聞きたくもなかったからだ。
「ほら、やっぱ間違いねぇ。そうそう、その声。これだヨ〜」
 俺が返事をすると、そいつは椅子から飛び上がらんばかりに嬉しそうに言った。ホントに嬉しそうに。俺に会うの、喜ぶ奴なんて滅多にいなかったからちょっと動揺して、それでなんとなく話をする気になったのかも知れない。
「MCとかでしゃべる声はけっこう低いのに歌うキーはすげぇ高いから、変な声って思ってたんだ」
 へ、変な声だとぉ!?
 ウザいから適当にあしらって離れよう、と思ってた俺は、その一言にぷっつりイった。しまった、と思った時にはもう言い返してた。
「あんたダレや、めっちゃムカツク。知らん奴に構うヒマあったら、塾でオベンキョーでもしてたらどうやねん? どうせそんな位の年なんやろ?」
 声に含ませた怒気がわかったのか、わからなかったのか……いや、わからなかったんだろう。そいつはさらに俺に顔を近づけて、ニコニコ(いや、ニヤニヤか……)しながらこう言った。
「アンタの声、すげぇ好き」
「……あ?」
 思わず不機嫌そうに聞き返す。でもそいつは全然気にも留めてない様子で、ケロッとして自分から名乗ってきた。
「あ、俺……イツキ。瀬田斎。アンタは?」
「窪塚……珱」
 反射的に俺も名乗った。こいつも変だけど、俺も変。いつもだったら絶対無視してる。
 そいつ……瀬田斎はニコニコしながら、俺の目の前に手をにゅっと突き出した。
 ……びっくりした……、手ェ握られるかと思った…………。
「触っていい?」
「あァ?」
「オマエの髪。なんか、すげー柔らかそー」
 ……最悪だ。しかもオマエ呼ばわりかい、オニイサン?
「……お前、なんか不気味じゃねェ?」
 頭に来たので俺も同じように呼んでやった。たぶん年上。でも絶対ばれてない自信はある。
 瀬田……斎は俺のケーベツ気味の視線なんて、全然気にしちゃいなかった。嫌そうに払いのけられた手をさも残念そうに見つめて、それなら仕方ないとばかりに話を本題に引き戻した。
「とにかく俺、お前を捜してたわけ。2ヶ月ずっとよ? なんかもっと喋ってよ」
「お前なぁ、言うてること、全然わからんぞ? めっちゃコワイ、ちゅーかキショい」
「そ。その声、すっげぇ好きなんだって。な、俺のヴォーカルになってよ」
「……はあ??」
 あまりの唐突さに怒るどころか理由を聞くことすら忘れて、気がついたら俺はコクンと頷いていた。
 それを見てソイツは始めちょっと目を見開いて、それから三日月型に目を細めてニカッと笑った。笑うと結構ガキっぽいカオだ。うちのガッコウにはいそうにないタイプだな、……って、何となく思った。


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