前日スペシャル



 明日は俺のバースデー。
 去年の誕生日にはまだ俺たちは始まっちゃいなかった。
 なんて今じゃソレの方が不思議なくらい、俺と珱は近い場所にいる。

 今日も朝から一目散に部屋に参上。お袋は後ろから追い掛けてきてカンカン。
「勉強道具は!? 持ってないじゃないっ。この受験生!!!」
「今日と明日は特別なんだよっ。だって」
 珱と付き合い始めて初めての誕生日。俺の。このあいだ珱はぶすっとそっぽを向いたまま、「何でも聞いたる」って言ったんだ。
「ばっかもの、受験生に誕生日も何もあるもんかっ。来年泣いても知らないからねっ」
 お袋は笑いながら二人分の食料が詰まったクーラーボックスを俺の手にギュウッと押し付けた。
「晩ご飯は7時。遅れたらアンタは明日1日ウチで勉強、珱くんは向こうでお留守番。分かってるね?」
 俺をじろりと睨んで言いつける。分かってるって、大事なことは。しなきゃいけないことはちゃんとするから信用してよ。
 珱と一緒にいられなくなるようなことはしないって。
 それがいちばん大事なことなんだから!



 真夏の太陽がガンガン照って汗なんかダラダラで、なーんにもする気が起きないけど顔を見たくて部屋に行ったら、珱は朝から一生懸命掃除機を掛けていた。
 首筋に掛かる長めの髪を後ろで適当に縛って、にょっきり覗く首の後ろは汗でキラキラ光っていた。
「なんでそんなに掃除してんの?」
「休みやから」
 いつもクールな珱はオハヨウのあとキスもさせてくれないで、手も止めずにあっさりと言う。愛想のカケラもないないない。まったく泣けてきちゃうね。
「お前、今日バイトは?」
「休み」
「へぇ珍しいな、土曜に休み取るなんて。店大丈夫なのか?」
「今日は忙しいから、俺。休みなん」
 珱はちらと俺を見上げてそれだけ言うと、また 忙しそうにベッドメイキングを再開した。なんとなくじゃれつきたい気分でいろいろ話し掛けるのに、敵はどうも俺が邪魔な感じ。掃除やら洗濯やらをするのに夢中らしい。
 つまんねぇ〜…。なーんかつまんねぇよな。
 それにちょっと冷たすぎないこの人は? 自分で言ったこと忘れちゃった?
「珱〜」
 後ろから抱きついてがばーとベッドに押し倒す。むぎゅ、という声を上げて珱が俺の下でごそごそ動く。
「やめー」
 珱がシーツに顔を埋めてもごもご言いながら手足をぱたぱた。俺の方が体重が重いからモノスゴク苦しそう。窒息しそう? 死なないでね。
「掃除ばっかしてないで構えよ、つまんねぇ」
「アホか、早よ退けっちゅうに。今日は忙しいて言うてるやろ」
 珱の機嫌がだんだん悪くなる。もうちょっとでリミットかな? でも俺だってリミットなんだよ。
「何でそんなに忙しいんだよ? せっかくのバースデーなのにさ」
 『バースデー』の部分をうんと強調して言ってやる。珱が怒り出す前に俺が怒ったら、珱はちょっとびっくりする。だからうーんと怖い声で迫ってやった。
 思った通り珱はびっくり、大きな目をパチパチパチ。かわいいな、かわいいな。
「…だからやろ。明日用事すんのイヤやん。一日中遊ぼうって言うたの、お前やろうが…」

 びっくりしたのは俺の方だよ。
 ああそうか、そういうことか! ゴメン、俺ってば全然分かってなくて。
 どうしよう俺怒っちゃった、俺が怒ると珱はホントに困ってしまうのに。

 ちょっとシュンとしてしまったら、珱はまたゴソゴソと体を動かして、俺の体の下から何とか抜け出した。隣にごろりんと寝転ぶ。「ふうう」と大きく息を吸い込んで吐いて、それからちょっとだけ笑った。
「お前が手伝ってくれたら、早よ終わる。お母さんのお弁当食べたら、プレゼント買いに行こ」

 誕生日ってやっぱ最高かも。これはきっと珱の精一杯のサーヴィスだ。だって顔は真っ赤だし声はボソボソ聞こえにくいし、でも目を逸らさないよう一生懸命俺を睨んでるのが分かるもん。

 そうして照れた顔のまま、珱はがばっと起き上がると、俺を起こすためにまっすぐ手を差し出してくれた。



end


 中学生どころか……。

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