| 翌日スペシャル 「おはよーっ」 「はよ…」 目が覚めてすぐ二階から駆け下りてダイニングへ駆け込むと、珱はもうすでに食卓についていた。あいかわらずキッチリしてるね、俺んちにいる時はっ。 昨日は一日プールに行ったり公園でぶらぶらしたり買い物したりして、そのあとうちの家族と待ち合わせて晩飯を食いに行って(もちろん俺の誕生祝いに!)、珱もそのまま俺んちに泊まった。だから珱は朝からウチの食卓に座ってるってわけ。 「斎、遅いっ。珱くんだってとっくに起きてんのに、アンタが寝坊してどうする? 先生がもうすぐ来るんだからねっ」 絶対嫌だと言って塾に通っていない俺は、夏休みの間家庭教師の先生について勉強することを親父とお袋に約束した。さすがに珱に頼るだけでは受験本番にどうも間に合いそうにないコトが、学期末の全国模試で俺にも珱にも家族にもハッキリ解ったからだ。せっかくのエスカレーターを蹴って他の学校を受験するのは自分で決めたことだから、コレばっかりは逆らえない。 これが最初の難関。掴んだ手を離さないでいるために、しなきゃいけないって自分でブッ立てた最初のハードルだから。 「目が覚めなかったんだからしょうがないじゃん」 お袋のお小言を軽く受け流して、黙々とメシを食う珱をじっと見る。こういう時珱は本当に静かだ。話を聞いてない訳じゃないけど、他人の会話に口を挟むことはほとんど無い。 俺があんまりじーっと見つめるものだから珱は居心地悪そうに眉を顰めて、ようやくチラリと俺を見上げた。見ながら「ナニ?」って感じでキュッと眉を寄せる。 勝利! 満足! だって別に意味なんて無い。ちょっとこっちを向かせたかっただけなのさ。 でもやっぱりいつもの癖で目が合った途端ニカッと笑ったら、思い掛けないことに、珱はプッと吹き出した。お袋が気がついて「ナニ?」と訊く。 「えっ、…や、あの」 珱はちょっとびっくりしたらしく、一瞬もごもごと口ごもってそれから、 「面白い顔やな…と、思って……」 ガ―――――ン。 ちょっと珱さん、それはあんまりじゃないか? いくら自分がアッと驚くくらいキレイなカオをしてるからって、ヒトのカオのことをそんなふうに言っちゃいけない。 ちょっとだけムッとしてふくれる俺の隣で、お袋は手を叩いて大喜び。 「お、もしろい顔! あはははっ。確かに!」 可愛いよね〜とニヤニヤしながら俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。「面白い」と「可愛い」は明らかに意味が違うぞ、と言ってやりたかったが我慢した。 先生が来るのを待つ間、部屋に帰って並んでベッドに腰掛けた。 「お前、今日は? 店何時から?」 「コンビニだけ4時まで。『GREEN DAY』は今日も休み取った」 「うっわー、美帆さん太っ腹。大サービスだな」 「ニッパチは客が少ないんやて。大丈夫って言うてくれた」 「じゃあ勉強終わったら部屋に行っていい?」 「参考書持って来るんならな」 珱ってば本当にスパルタなんだから。珱の部屋に泊まってないからしょうがないんだけど、昨日一昨日とロクに触らせてもくれないし。 心の中でブツブツぼやきながら顔を近づけると、珱は何を驚いたのかハッと肩を竦めて身を引いた。…ショック〜。 「あ…」 視線がウロウロしてる。珱の。やがてそおっと肩が近づいてきて、俺の肩にコツンと触れる。素直になるまでに時間が掛かる。全く、ホントに、しょうがないんだからな。 「こういうのもしたくない?」 言いながらもう一度ゆっくり顔を近づけると、今度はどうにか逃げられずに済んだ。 階段の下から先生がいらしたわよ、と俺を呼ぶ声がする。 もうちょっとだけ待って、あと2秒。 俺の願いも空しく珱がフイと立ち上がる。どこまでもクール。冷たいよマジで。 「じゃ、また4時半くらいな」 すたすたとドアに向かう背中に向かってバイバイ。しばしのお別れ。 珱がピタリと立ち止まる。背中越しに小さな、よく通る声がする。 「早よ来いよ。…待ってるから」 「珱っ!」 ガバッと駆け寄って背中からがっちりキャッチ。そのまま扉に体当たり。二人分の体重で支えたら先生が来てもちょっとやそっとじゃ開けられないだろ。 慌てて唇を探してキスをした。軽く触れるだけじゃなく、ちゃんと心を込めたキス。珱の腕が肩に回る。それだけでドキドキの加減が違うんだ。 「斎くん、オハヨウ」 扉の向こうからノックの音と、無粋な先生の声がする。 でも今日は許してやろう。到着のタイミングがナイスだったからな! 「ちょっと待って、先生っ。あと2秒」 それだけ叫んでもう一度キス。 珱が文句を言い出さないウチに、あと少しだけ、あと2秒! ◆ end ◇ 甘々で……なんかショタっぽい? ……大丈夫? |