| kiss+kiss 020214 |
イライラする…… 馬鹿みたいに部屋の中を行ったり来たり、落ち着かなくて何度も往復してる。 『GREEN DAY』で働いていた頃だってアイツはとんでもなく目立ってたから、店に来る客と言わずスタッフと言わずモテまくってたし、いちいち気にしたことなんかなかった。 俺たちは普通の恋人同士とは違う。なんとなくそう思って安心していたのかも知れない。珱が誰と出掛けようが誰に告られようが心配したコトもなかった。 なのに。 何故こんなに心が波立つんだろう? 鳩尾の辺りがどうしようもなく疼く。何かが自分の中で渦巻いている気がする。 デビューシングルのレコーディングが始まったのと同じ頃、珱は俺と暮らした部屋を出て実家に戻った。それは単純に仕事のせいだけではないけれど、自分で決めて、家に戻ると言い出した。 高校受験の時俺と一緒にいたことを珱はずっと気にしていたらしく、大学受験に備えて別々に暮らそうなんて言って。 『一緒におらんほうが良いこともある』 真剣な顔で言われて返す言葉がなかった。 俺がどんな気持ちでいるか、きっと珱は知らないのだと思う。 そして昨年の11月のメジャーデビュー以来、珱の周囲は一変した。 アマチュアとプロは違う。置かれる状況も、かかってくる責任も、バイトしながら歌ってた頃とは違ってくることくらい覚悟してたつもりだ。兄貴にもそれとなく釘を刺されていたし、インディーズからメジャーに行った奴らを知らないわけでもない。 でも……以前と今とでは状況があまりにも違いすぎた。俺がわかったふうな気でいたよりも、ずっと。 JUDEは早くからデビューを待たれていたバンドで、初シングルは発売前から方々でかなり話題になっていた。案の定デビュー後ファン層が格段に厚くなって、珱の周りは一気に騒がしくなった。 本人は相変わらず人付き合いが苦手で苦労してるけど、ファンや仕事関係の人間はそんなこといちいち気にしちゃくれない。 毎日疲れ果ててクタクタになって、いつのまにか連絡が途切れがちになった。 しびれを切らして夜中に電話すると大抵眠っていて、それでも一生懸命話をしようとする。それがかわいそうで迂闊に電話も出来なくなった。 仕事が忙しくて会えないことは仕方ない。会えないときは電話をしてくるし、出来る限り時間を作ってくれようとしているのも解る。休みが取れると真っ先にここへ飛んでくる。 それでも我慢できなくなるのは俺のわがままで―――――解っているからまた自分に腹が立つ。 昼間の俺の言葉を珱はどう思っただろう。 デビューからわずか3ヶ月の新人とは思えない、プレゼントの山。はじめは面白がっていられたけど、だんだん落ち込んできて。 ―――――俺だけのモノじゃなくなるのかな、なんてバカなことを考えた。 俺がこんなこと考えてるって知ったら、珱はきっと凄い勢いで怒り出すだろう。それとも呆れるかな? 昼間みたいに目を丸くして、「俺が誰のこと好きか、知ってる?」って。 部屋の中を意味なく徘徊するのにも飽きて、ベッドに体を投げ出した。 「くそっ…………」 俺ってこんなに情けないヤツだっけ? 珱に、呆れるくらい脳天気だって笑われる俺はどこへ行った? 顔を見られないことが怖い。 一緒にいられないことが怖い。 珱が一人で大人になっていくのが怖い。 「情けねえなぁ、俺…………」 誰もいない部屋に、落ち込みきった自分の声が妙に響いた。 「……いつき、……」 軽く体を揺さぶる掌の感触。声がする。……珱、の………… 「珱っ!」 いきなりパチッと目が覚めた―――――眠っていたらしいのに、声が聞こえた途端。俺ってホント現金。 「……び、っくり、した…………」 真っ黒な瞳がせわしなく瞬きする。 「いきなり目ェ開けんなよ。心臓が、ギュウって言うた」 笑って、それから手を伸ばして俺の頬に軽く指を乗せる。 「遅なった、……ゴメン。待ちくたびれたな」 そんな顔して謝んなよ。帰したくなくなるから。 口に出せない言葉が心の中でグルグル回る。 「ラジオどうだった?」 「まぁまぁやな。三言くらい喋った」 「マジで? こんちわとよろしくとアリガトウございました、とか言うんじゃねぇだろうな?」 途端に珱は細い首を目一杯反らせて笑い声を上げた。心地良い音が耳をくすぐる。ずっと変わらない、澄んでよく通る声。 「アホ、それやったらいつもと変わらんやん。今日の俺はちょっと違ったよ? 気合いの入り方が並やなかったね」 「ジャケ写がかかってるからな」 と言うと、珱は意味ありげに眉を引き上げて俺をじっと見つめてくる。 「……だけやと思ってる?」 「他になんかあんのかよ?」 気になって聞き返したけど、珱は笑うだけで結局白状しなかった。 食欲がなくて食事もしていないのに、顔を見た途端そんなことすらどうでも良くなって。疲れてるはずの珱を無理矢理引き寄せて抱き締めた。 暴れる体を押さえつけて乱暴に唇を合わせる。息が上がるくらいキスを貪って唇を離すと、珱は苦笑しながら俺の髪に手を入れて何度も掻き回した。 「アホ斎っ、風呂ぐらい入らせえ、」 仕様がないって顔をするのがバカみたいに嬉しい。 変な気分で止まらない俺を何とか押しのけて風呂に向かった珱を追いかけてイタズラして、早々にベッドに引きずり込んだ。 微かに湿り気の残る首筋に唇を這わす。舌で耳元から鎖骨の辺りを丁寧になぞる。 反り返った喉の柔らかい肉に歯を当てると、くっきりと濃い色の印が残った。 まるで襲ってる気分。遠慮……のような気持ちが沸いてくる。 「俺、マズいかも……。何するかわかんねぇ」 「なにって?」 「オマエのこと、壊しちゃうかも……」 見下ろす先の綺麗な瞳がうっすらと細められる。 「おまえの好きにせえて、言うたやろ……?」 まるでため息のように呟いた。 「じゃ、おまえが、して」 「ん、……」 小さく返事をすると、珱は俺の下からするりと抜け出して体勢を入れ替えた。 浅い息が胸にかかる。生暖かい舌が胸の突起を探り当てて、円を描くようにゆっくり舐め始める。唇を尖らせて触れると、チュ、と軽い音が鳴った。 「久しぶり……、こんなん、すんの…………」 目を合わせて照れたように笑う。そんな顔を見るだけで下半身がドクドクと脈打ち始める。 「しても、ええ……?」 なんて聞いてくるのに軽く頷いて答えると、本当に嬉しそうな笑顔が返ってきた。 気持ちよさそうな顔をするのが見たいから、珱にこんなふうにしてもらうことは滅多にない。俺は今日、やっぱりおかしいのかも知れない。珱の舌が先端に触れただけでズンっと甘い痺れが全身に走った。 珱もなんだか様子が違う。慣れない行為に夢中になって、俺の固くなったモノをまるで大事なものでも扱うように丁寧に舐め上げる。 「どうした、……? なんか、ヘン、」 「黙って…………」 「ん、っ……」 俺を口に含んだまま短く返事をすると、唇を窄めて強く扱き上げる。鳩尾の辺りを覆う快感に思わず息を飲み込んだ。 「気持ちええ……?」 腹の上に伏せられた長い黒髪をくしゃくしゃにしながら、息を吐き出す。 「ン……、すげぇ、いい……」 気持ちイイ。迷ったり悩んだり、揺れていた心が緩やかに溶けていく。離れかけていた大事なものが戻ってくる気がする。 「珱っ、」 堪らなくなって、名前を呼んだ。 「挿れさせて、オマエのなか……。たまんねぇ、」 情けないくらい声が震えてるのはしょうがない。取り繕う余裕なんてない。 と思ったら、珱も 「俺ももう、……ヤバい」 言うなり、体を起こして俺を両手で支えると、自分の後ろに宛っていきなり腰を沈めた。 「バカ、まだっ……」 「ええ、からっ……、動くな……っ」 びっくりして思わず起きあがろうとするのを、固く目を瞑ったまま首を横に振って遮られた。何かを確かめるようなゆっくりとした動作で、珱は俺自身を全部飲み込んでいく。 さすがに辛いのか、しばらくじっとしたあとハァっと息を吐いて、ゆっくり体を上下に動かし始める。 「っ、は……あ、……」 わずかに開いた唇の隙間から、赤い舌がチラチラ覗く。大きく仰け反った反動でさらに深く俺自身をくわえ込んで、 「んっあ、ぁ……っ」 急に高い声を上げて……俺の腹の上に白い飛沫を散らした。 「あ、あ……」 「ウソ……」 達ったことも解らないのか、俺を中に収めたまま珱の身体がビクビクと痙攣する。 余裕がないのは俺だけじゃないって? 「どうしたの? オマエ、今日ヘンじゃねぇ……?」 「かも……。すげぇっ、感じる…………」 すすり泣くような声で囁かれて、理性が飛んだ。 ひさしぶりに珱が動けなくなるまでセックスして、気がついたら窓の外が白み始めていた。 珱は力の抜けきった身体をベッドにぐったりと横たえて、小さくため息を吐いた。 「アホやな、俺。『好きにしろ』とか言っといて、自分のほうが我慢できん……」 苦笑混じりでポツリと言う。 「今日、仕事終わったらやっとオフやなって思たら、アタマおかしなって……」 「で?」 「昼間誰かさんが火ィつけよったしな……。あんなキスされたら、頭ン中、ソレばっか……」 信じられないことを口走ってるの、自分で解ってるんだろうか? 俺が一人で暗くなってるあいだ、そんなコトばっか考えてたわけ?? 落ち込んでた自分がバカみたいに思えてくるよ。 複雑な気分になって何も言えない俺の顔を見つめながら、まだ少し赤くなったまま涙の滲む瞳が笑った。 「ま、ええけど。おかげでイヤ〜な仕事も気合いでこなせたしな……」 ウレシイやら泣きたいやら、訳が分からなくなって、俺はありったけの愛情を込めて、不気味なくらい素直な恋人に最高の気分でキスをした。
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