サムネイル [ 55 HIT MEMORIAL ]
◎そんな訳でかっこイイお兄さんがホッケーの格好をしている所をお願いしたいのですが我が儘すぎますか?
『ほーらホッケー格好良いよ やってみる?』と我が息子を口説くために...キャラは当然珱くんで
◎Naoko様より イラストリク(サムネイルをクリックすると画像拡大)





*ユメのカケラ*




 鋭いエッジが氷を捕らえて掻き削る音が聞こえる。トーンの高い摩擦音が冷気で微かに痛む耳を心地よくなぶった。
 広い空間。かなり高い位置から見下ろす凍ったフィールドは、まるで一枚の大きな鏡のように見える。
 立ち上がって身を乗り出すと、小さな影のように見えていたものが、たくさんの人間の素早い動きが重なり合う残像なのだということがやっと分かった。
 ゆっくりと頭を巡らせて周囲を見渡す。
 煌々と照りつける無数のライト。円を描いて左右に伸びる高い天井。熱気。歓声。競技場特有の、圧縮された空気の質量。こんな空間に身を置くのは初めてだ。
 目の前で展開されている試合は白熱しているようで、無駄のない軽やかな、けれど思わず身を引いてしまいそうな激しい動きで、選手たちが広い銀盤の上を縦横無尽に駆け回っていた。
 ドンッと何かがぶつかる音がした。驚いて目を向けると、さっきまで目を剥くような重量感のあるタックルをしていた選手がフィールドに横たわっていた。
 緊張の糸がぷつっと切れて試合が中断する。その選手は見るからに冷たい氷の上に転がったまま、なかなか起き上がらない。選手を見守る観客席の間に、シンとした緊張感が走り抜ける。
 ケガをしたのかも知れない。
 あれだけ激しく競り合いをしているのだから、接触のダメージは相当重いに違いない。
「あの人、ちょっとだめかも。すげぇ痛そう」
「ホッケーって、格闘技と一緒ってホンマやな。当たったらふっ飛ぶもん。生で見るのってやっぱ迫力あるわ」
 珱は顔に似合わず格闘技好きだ。肉弾相打つ、なんて場面にかなり燃えるタイプで、今も俺の方なんか見向きもせずにフィールドを食い入るように見つめている。
「俺、ちょっと恐ぇ。あの21番なんて、壁みたい」
 きれいな音色が楽しそうに揺れた。
「大丈夫ちゃう? 俺から見ればオマエも充分、壁や、壁」
「それはないだろ。お前が細すぎんだよっ」
「ほら、やっぱダメっぽい。退場する………」
 珱の声につられて、フィールドに視線を戻す。
 やっぱダメかよ。あの選手が抜けたら、攻撃力落ちるだろうな。
「なぁ、こういう時、選手交代ってありなの?」
 問いかけながら振り向くと………珱の姿がなかった。
 ??? 今までここで話をしてたのに、飲み物でも買いに行ったのか? 素早いッつーか、気配がないっつーか、………忍者?
 突然、場内アナウンスが大音量で流れ出した。拡声されすぎてハッキリしない音声で選手の交代を告げている。珱のことが気になりながらも、俺の意識は自然とそちらに引きずられた。
 静まりかえっていた観客が一斉にざわめき始める。
 そんなに期待できる選手なのかな? スタメンでもないのにまだそんな選手がいるわけ?
 興味が湧いて思わず身を乗り出す。目を凝らして選手の入場口を見つめる。
 と、アナウンス通り、ひょろりと背の高い選手が奥から姿を現した。
 ショルダーガードを付けているにも関わらず、首やら肩やらがびっくりするほど細い。他の選手から比べると『薄さ三分の二(当社比)』ってところだ。
 新たな戦力は軽快に氷を蹴ってフィールドの真ん中に立つと、手に持ったスティックを一回上げた。
 ……何かのサインか? 何となく、目が合った、ような気がする………

 ホイッスルの合図と同時に、試合が再開する。
 今までの静けさが嘘のように、場内の熱気が突然膨張した。
 あの選手のせいだ。
 合図が鳴り終わるか終わらないかという間に、いきなりスピードを上げて相手のフィールドに突っ込んだのだ。度肝を抜かれるなんてものじゃない、あれを一直線といわずになんて言う?
 避けることも接触する怖さも全然考えてないとしか思えない、クレイジーな攻撃。どう見ても見劣りする体格で、気持ちいいほど豪快にゴールだけを目指して突進する。
 ふたりがかりで行く手を阻まれたそいつは、それでも怯まない。しっかり前を向いてスピードを上げて、ぶつかる! と思った瞬間に………
 そいつは当然ふっ飛んだ。ふっ飛びながら回転してスティックをすうっと横に流して、右サイドをサポートしていた自軍の選手に、見事なパス。
 すげぇ!! 
 ドオッという歓声が上がる。命知らずのニューカマーに惜しみない賛辞が送られる。
 そいつの決死のパスを受けた選手が一気にゴールを狙う。
 そういえば、アイツは………死んでねぇか? すげー飛び方したぞ? 首の骨、イキそう。
 慌ててフィールドを目で探すと、そいつはゆっくりと起き上がるところだった。衝突のショックでヘルメットが脱げて、長い黒髪が肩の辺りで揺れている。
 へぇ、ホッケーってロン毛オッケーなのか………なんてぼんやり見つめていると、そいつがようやく顔を上げた。
 こんなに離れた位置からでもはっきり分かるほど大きな瞳。コーヒーにミルクをちょっと混ぜたような濃い肌色。
 あれ、それって………………
「珱〜〜〜〜〜っっ!?」

 と叫んだ拍子に、………目が覚めた。

「…なんやねん、急に大きな声出して………」
 あからさまに機嫌の悪い声が、目の前から降ってきた。
 なに? 俺はどうしてココにいる? っていうか、ここはどこだ?
 壁を向いていた背中が動いて、面倒臭げにゆっくりと体をこちらに向けた。
「寝るなら、大人しく寝る、騒ぐならトイレにでも行って騒げ。今日はエッチもなし。以上」
 言いたいことだけ言って、真っ黒のきれいな目をすぐに俺から取り上げる。
 いや、そんなにキッパリ言わなくても………じゃなくて、
「夢、見てたみたい。お前、ホッケーの選手なの。すげぇキレた攻撃でさ、ガーって突っ込んで、ドーンと飛ばされて、ヘルメットが脱げたら、お前なの」
 混乱した頭でなんとか状況を整理しようと努力する。
 なんとも要領を得ない説明だが、安眠モードに入っていた珱の心をなぜかくすぐったらしい、いったん瞑った目を開けて俺の顔をまじまじと見つめた。
 キレイだねぇ、珱くん。こんなに真っ暗な部屋の中でも、目ェ、キラキラしてるよ。
 あ、笑った。よかった、機嫌直ったぜ、ラッキー。
「それって、晩飯のとき見てた、CSの影響か?」
 そういえば、メシ食うときテレビでホッケーの試合見たよな。アイスホッケーなんてオリンピックの時くらいしか見かけないから、珍しくて夢中で見ちゃったんだっけ。
 そうか、それであんな夢見たのか。
「それだよ」
 大いに納得して自信満々に答えたら、ぽつりと
「………お前って、ホンマに飽きひんな」
 ほとほと呆れた、という表情で、またうっすらと微笑んだ。

 ふむ。……ようするにそれって、『アイシテル』ってことだよな?


オワリ



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