:: Indian Summer ::
1. 〔U〕〔C〕(米国・カナダで10月から11月にみられる)小春日和    
2. (人の晩年などの)落ち着いた平安な時期    (c) Lycosディクショナリ

Cast : 准 [jun] 鋼 [hagane]  Condition : 幼馴染み 晩夏 部室 おそらく着衣 そして現在

 




 どうしても思い出せない記憶がある。
 頭の隅にずっと引っ掛かったまま宙ぶらりんで浮いている、記憶の切れ端。
 風に千切れたどこかのシンボルフラッグのようなものが窓の向こうで揺れている。
 雨や風や日光で色褪せたボロボロの布地の所々に文字が見える。それはもしかしたら文字じゃないのかも知れないが、俺はそこに描かれている字だか絵だかに何らかの意味があることを知っている。
 俺は風にはためくその布きれを見つめている。たぶん俺は座っているんだろう。布きれの向こうの空が妙に遠い。嘘臭いくらい青い青い空中を見るともなしに見ながら、どんなに手を伸ばしてもあの白いふわふわには届かないな、とかそんなことを考えてた気がする。それで「ま、いいか」とすぐに諦めたんだ確か。
 どこかから声が聴こえてた。
 か細い声だ。
 声はときどき高くなったり低くなったり、たまに震えたりする。音程がリズミカルに上下する。ため息のような音も混じる。
 泣いているのか?
 そうなのかも知れない。
 揺さぶられている。腹の底から沸き上がる感覚に目が眩んだ。
 熱いな……… そうも思った。
 このまんまじゃ、焦げちまうかもな。
 ―――――誰が? 違う違う、そうじゃない。
 誰と誰が、だろ?



 そこで記憶は途切れてる。




* * *




「なぁ、…この傷いつ出来たんだっけ?」
「どの傷」
「ここ。左手の人差し指の付け根のさ…」
 俺はそう言いながら准の目の前に左手をかざした。掌を目一杯広げてよく見えるように突き出すと、准はびっくりしたように軽く仰け反って、それからゆっくり顔を近づけた。
「あぁ? どこよ、見えねぇよ…」
「ほらここだって。うっすらあるだろ、なんか赤い痕が」
 指で問題の箇所を辿る。確かにある。ほとんど消えかかってはいるがこれは間違いなく怪我の痕だ。
 憶えのない疵。思い出せない記憶。俺が憶えていなくてももしかしたら准が憶えているかも知れないと思いついたのは、ひとえに准が俺の幼馴染みだからだ。
 俺は真剣に首を捻った。俺はいつだって至極情熱的で真剣だ。
「何で出来たんだ、こんな疵?」
 隣でうつ伏せに寝転んでいた准がゴロンと体勢を変えた。
「俺が知るかよ」
「なんだー。准なら知ってるかもしんないと思ったのになー」
「なんでやねん」
 似非関西風の妙なアクセントを真似しつつも、准は本当に本気で嫌そうな顔をした。
「憶えてないのか?」
「全然」
「ふうん」
 短くそれだけ言うと、准は急に思いついたように、自分の左手を俺の目の前に突き出した。さっき俺が准にして見せたみたいに、指と指の間隔を目一杯空けて、その場所が俺によく見えるように。
「―――――あ、おんなじ疵だ」
「バックレてんじゃねぇよ。オマエが作った疵だろうが」
「そうだっけ?」
 ここで俺がとぼけてみてもあまり意味はない。
 准の左手の人差し指の、親指側の側面には俺の左手に残る色素の抜けた疵と同じものが生々しい色彩と質感を持って、その存在をありありと主張していた。
 それは俺が付けた傷だ。もう少し正確に言うと昨夜俺はその場所に噛みついた。昨夜だけじゃない。感極まって自分が抑えられなくなると、俺は必ず准に左手を借りるのだ。
 そうは言っても一応他人の指なわけだから俺もどこかでちゃんと遠慮をしているらしく血が滲むほど酷い疵になることは滅多にないが、それでもたまに、一部分だけが小さく窪んでエグい紫色になったクレーターみたいな疵を拵えることがあった。
 左の人差し指でそっと疵を撫でると、准の指が僅かに震えた。
「痛そー…」
「お前が言うな」
「今日はおんなじ場所、使えねぇなぁ」
「出来れば勘弁しろ。次はたぶん肉ごと喰いちぎるぞ。流血沙汰だ。スプラッタだ。ケイサツとショウボウが両方飛んで来る」
「警察はともかく、消防は来ねぇと思うがな…」
 しょうがない。今日は―――に噛みつくか―――――
 俺は考えた。そんなことを、まるでそれが当たり前のことのように。

 哀れな状態になった准の人差し指を口に含んで丁寧に舐める。これだけ酷い疵になってから舐めたって消毒にはなりゃしないだろうが、気は心だ。目を伏せて、人間の味がちゃんとする指を喉の奥まで飲み込んで件のクレーターを舌でなぞった。
「うぇっ。バカ、お前指動かすなっつーのっ。ゲロ撒くぞコラ」
「ったく、何ていうか、猛烈に品性下劣だねーお前さんは…」
「うるせぇよ」
 下らない冗談で笑い合うあいだにも、准の右手は俺の身体の出っ張ったところをフラフラと彷徨っている。耳とか膝頭とか乳首とか…その他の突起をだ。
 息が上がる。ガソリンが徐々にエンジンに送り込まれて点火する。最初はじわじわと滲むように、すぐにエンジン直結、スタート エンド ゴーだ。
 仰け反って、捻れる。背筋が緊張する。眉間がピリピリと粟立つ。吐息を漏らす。喉が震える。震えはやがて音になる。大きな、大きな音に。
 何か噛まなきゃ壊れっちまう。が、准の指は怪我してるから、さすがの俺ももう一回貸してくれとは言えない。
 唇を噛んでみたが柔らかすぎてあまり役に立たなかった。どうも具合が悪い。痛みより先に血だけ垂らすのはマヌケだし、何より噛み千切ったりしたら本当にシャレにならない。
 同じような固さで同じような味がする。探す。探す。情熱を振り絞って懸命に探す。
 ああなんだ、あるじゃないかよ。同じものが俺にもあったよ。何だって自分のをコロッと忘れていたんだろう? 思考がそこで一旦閉じる。


 自分の心の中に自分で突っ込む。
 おい。お前は今、何か思い出しかけちゃいないか?
 俺の手に残る疵はいつ出来た? これが出来たのはいつだ?
 夏の、終わりの、蒸し暑い午後。ボロボロの布きれが目の前で風に揺れていた―――――


「思い出したっ」
 俺は勢い込んで飛び起きた。
 飛び起きたら頭の上に丸まっていた薄いシーツをついでに引っ掛けて、それがずるっとベッドから滑り落ちるのを、准が素早く手を伸ばして掴む。「…ったく、お前はよ……」とか何とか、言いながら目を閉じて深々と息を吐いた。俺は思いついたことを忘れないうちに准に伝えるのに必死で、自分が今どんな格好をしているかまで気遣う余裕なんてない。見たくないなら自己防衛よろしく頼む。
 息を詰まらせながら次を続けた。
「俺が自分で噛みついたんだよ。思い出した。あの時、クソ暑い部室でお前に初めて入れられた時さ…」
 叫んだ途端、准がぶっと吹き出した。



* * *



 目前に開けた部室の窓からは、遠く、グラウンドが見えていた。はためく布は自分達で勝手に作った看板代わりの旗だ。美術部から掻っ払ってきた真っ青のアクリル絵の具と家にあった赤いペンキでそこにクラブ名と適当な英単語を描いた。
 何て描いたんだっけ。"More Rock,No more return" だったっけ? うわ、思い出すだけでカッコ悪。だっせぇ。しかも意味が通じてないし。
 俺がどうしても既存のクラブにはいるのを嫌がって内申にまで響くくらい教師とやり合ったとき、『俺の作った部に入れ』とか言って准がまだ申請もしていないのに、部室棟のいちばん端の誰も使って無くて倉庫替わりになってた空き部屋を占拠したんだ。
 俺たちはそこに旗を立てた。部名は確か『GENERATION GAP』。悶えながら地面を転がりたくなるほどダサいネーミングだった。活動内容は『ロックを語ることによって自己と周囲の関係性を探る』 …確かそんな内容で熱心に申請書を書いてやがったんだよ、この男。
 当然の如く、准のふざけた創部申請は通らなかった。職員会議の議題に上ることもなく、自分で選ぶことも出来ない他人の都合で、俺は魚屋の店先にずらっと並んだ死んだ魚のように同じ顔をして何も言葉を発しないただの物体になることを強制された。
 そうして俺は学校を辞めた。もうその場所にしがみついている必要の無いことが、その一件でよぉく解ったからだ。どこか別の場所があるはずだ。ここではない、別の世界が。何の保証も確信もなく、それでもそう信じて疑わなかった。

 俺は退学届を自分で担任の所まで出しに行った。夏の日射しもまだ翳りを見せない、暑い暑いある日の午後のことだ。
 親はこの親不孝と言い、教師は馬鹿が早まったことをして、いつかきっと後悔するだろうと笑った。大勢いるはずのクラスメイトは虚ろな目をして誰一人として何も言わなかった。
 准だけだ。「思い切ったな」って、まるで褒めるみたいに声を掛けてくれたのは。
 最後に幻の部室を見ておこうかなんて、俺らしくもない感傷的な気分でそこに行ったら准がいた。
 珍しい顔を見たからか、准はしばらくじっと俺の顔を見つめたあと、
「やることが昔っから極端なんだよお前は」
 と言った。室内の空気は埃っぽかったけれど新鮮で、准が一度も使われることの無い幻の部屋にそれでもずっと手を入れ続けていたことが何となく解った。准はそういう奴だ。黙って見ているだけじゃなく、いつも何かを考えて、何かしようとしている。
「そうかァ? そうでもないと思うけどな」
 斜めから笑って見せる。そんな俺を准は恥ずかしくらいの真顔で見つめ返してくる。
「勇気あるよお前。マジ尊敬する」
「サンキュー」
 簡単な会話だったけど、ありふれた言葉だったけど、嬉しかった。

 敷かれたレールをわざわざ踏み外した実感はあった。
 これから行く道はきっと楽じゃない。少なくとも疑問を感じながらもただ黙って流されていく毎日よりは、自分で頭を捻って自分で選ばなきゃならないことが増えていくはずだ。
 本当に出来るのか。俺に、そんなことが? 格好つけて勢い良く飛び降りてから空中で不安になるなんてお笑いだ。

「後悔だけはすんなよ」
「…えっ?」
「俺はお前と一緒に卒業するつもりだったんだから。そのために担任に直談判もしたしクラブも作ったし部室も確保したのに…まぁ、"Generation Gap" は発進する前にポシャっちまったけど…ケツ捲って勝手にさっさと辞めちまいやがってクソ腹の立つ。とにかくお前は俺の予定を狂わせたことを肝に銘じろ。思い知れ。絶対後悔すんな。…」
 見ると准は怒ったような表情で俺をじっと睨んでいた。一つ一つの言葉をまるで掌に指で文字を書いていくように、ゆっくりと丁寧に口にする。
「これからは俺の目の届かないとこに行くんだから。俺はもう見ててやれないんだから…」
「准…お前、何言ってんだ……?」
 知らずに涙が頬を伝っていた。
「頑張れっつってんだよ。泣くな、バカ」
 准は唇を端だけ引き上げて少し笑った。
 それから俺は声を立てずにひたすら泣いた。なぜ涙が出るのかは解らなかった。あれほど懸命に泣きたいだけ泣いたのは、他はきっとこの世に生まれた落ちた瞬間くらいだろう。それぐらい泣いた。
 必死の形相でただ泣くために涙を流す俺を、准はずっと抱き締めていた。そうしてしっかり抱いてもらうことが、あの時俺が准に一番して欲しかった事だったように思う。
 准はこんなことも解ってるんだなぁ、エライ奴だよなぁと変なところで感心していたら、准の思惑は俺の預かり知らぬ別の所から噴出した。
 俺を丁寧に抱き直してから、准はようやく諦めたようにポツッと。
「惚れてんだからさ……」
 准は俺に惚れてたのか。そうか、そうだったんだな。なんだそれならそうと早く言えばいいのに、タルい奴だ。それだけのことを告るのにいったい何年掛かってるんだ?
 現金な俺はその一言であっさり復活した。
 ガキの頃からよく知った間柄だったからそんなこと考えたこともなかったけど、不思議と不思議じゃない。
 昔っから献身的なやつだとは思ってたんだ。俺が癇癪を起こして新品の筆箱を踏み潰した時は自分のをくれたし、ノートをわざと焼却炉に放り込んだりするとそのたびに新しいノートを用意してくれたりしたんだよな、もちろん中身付きで。思い出したよ。
 昔っから俺は王様だった。まだ若いから王子様か? まぁいいそんなことは。大事なのはそこのところを過ぎた、その先だ。
 うんと心地良かった。いつも王様で王子様で、自由に羽根を広げていられた、こんな俺でも。他人と合わせたり同じ事をしようとするとアイデンティティもどきが簡単にぶっ壊れちゃうような、我が侭でへこたれた俺でもさ。

 だからなのか准が恐る恐るって感じで唇を重ねてきたときも、別に嫌じゃなかった。
 触れてしばらくそこに留まって、それから開いた唇の間から舌先でそろっと前歯をつつく真似をする。ノックしてるのかと思った。
「コンコン、入っても良いですか?」「ちょっと待って今、使用中」
 なぜか裏声のそんなナレーションが頭を駆けめぐる中、俺は准の舌を口腔内に引きずり込んで夢中で吸った。絡めては離して、また吸った。唇が離れていった時、余韻で感じた。
「もっと、したいんだろ?」
 したいのは俺かよ。悪かったな。
「まぁな」
 そりゃよかった。
「あ、そ」
 じゃあいいやって言う代わりに今度は俺からキスをした。『甘く蕩けるような』ってのをイメージしてやってみたけど、上手く行ったかどうかはわからない。准が枷を外されて手足がやっと自由になった猛獣みたいに俺の制服のボタンを引きちぎったのを見て、満更でもなかったのか…ってぼんやり思ったくらいで。



 初めてだったからさすがに違和感はあったが、気持ち悪くはなかった。准は思いの外手慣れていて俺を簡単に追い詰めた。何度も何度も追い上げられて、そのうち声が出始めたあたりで正気が飛んだ。

 自分では絶対に触れられない場所に准が難なく入り込んでいるのが不思議だった。
 人と人はこんなふうに繋がることが出来る。未知の場所を摺り合わして目には見えないものを探り出す。それは心と心を寄せ合うのにどこか似ている………
 …って、何カッコつけたこと言ってんだ俺は。
 違うだろ。気持ち良かったんだろうが? 泣いて喚いて、ここがどこだかなんてこともすぐには思い出せなくなるくらいに。
 窓を開けっ放しにするよう頼んでおいて本当によかった。
 青い空をバックに目の前でヒラヒラと揺れるボロ切れスレスレの俺たちの旗と校庭をちらほら行き交う人の影で、ほんの時折だけでも自分の在処を思い出せたからだ。
 まだここじゃない。もっと先だ。もっとっもっと先があるだろ。
 ―――――すぐに違う感覚に紛れてしまったけど。

 そうだ。そうだよ。准のせいだ。准があんまり激しく揺さぶるものだから俺は抑えがきかなくなって、だけど泣き声が漏れたら誰か飛んで来るかも知れないし、まさに佳境、もうすぐゴールって時に誰かに現場に踏み込まれるのはゾッとしないし、それでしょうがないから自分の手にガブッと噛みついたんだ俺は。
 夢中だったから加減が出来なくて、一瞬正気が戻るほど痛かった。しばらくしたら鉄っぽい味がするから血が出てるんだってそれで解って。噛みついた部分の肉が捲れて神経が剥き出しになるみたいな感覚が異様に気持ちよくて、調子に乗ってさらに強く噛んだらそこから血が吹いた。犬歯が微妙に食い込むくらい柔い皮膚が抉れた。
『ばか、何やって…。血が出てんじゃねぇかよ』
『止めらんない…。止まんないみたい』
 快感も激痛も興奮も声も。だから俺は「止まらない」ってその一言だけを夢中で繰り返した。心とは違う場所から涙があとからあとから溢れては流れていた。頭がおかしくなりかけてるみたいだった。
 そしたら准が俺の口元から手を遠ざけて代わりに自分の手を押し付けてきたんだ。
『これでも噛んどけ』って。
 続いてこうも言った。
『お前のすることはいつだって勢い余って度が過ぎるんだよ。俺のならいくらお前でも加減くらいするだろ? …マジ手加減しろよ、オイ鋼、聴いてんのか……』
 准がだんだん不安を募らせる様がたまらなく可笑しかった。


 それからだ。俺が正気を保てなくなると、准が必ず左手を貸してくれるようになったのは。




* * *




「思い出しちゃったよ…。そうだ、俺が自分で噛んだんだよ。そうそうそう」
「お前があれをキレイさっぱり忘れてやがったのがいっそ不思議だよ、俺は」
 奥歯に物が挟まったみたいにずっと引っ掛かっていたもどかしい記憶が10年ぶりに戻って来たことを素直に喜ぶ俺の隣で、准は全然不思議でも何でもないような顔をしているくせに、口ではそんなことを言った。
 




* * *

 


 あれから10年。月日は流れた。俺たちはもうどこから見てもガキじゃないが、幼馴染みであることに変わりはない。准が相変わらず俺の知らない所を、俺より余程良く知り尽くしてるってことにも変わりはない。
 10年経って俺たちはパートナーになった。仕事の上でも、こうしてオフタイムも飽きずに顔を突き合わせているんだからプライベートでも、と言えなくもない。
 人生ってのはなかなかに奥が深い。越えても越えても障害物競走みたいに新しいハードルが目の前に迫る。しかも今度のハードルはちょっとやそっとじゃ越えられなさそうだ。
 なにせ10年越しの大命題だから厄介なことこの上無い。

 最近俺はある話題にひどく心を囚われていて、事あるごとに准にしつこくこう繰り返しては嫌がられている。
「俺ってお前に惚れてると思う? 普通だったらたぶん惚れてるんだよな。とんでもないもんをエライ所に突っ込まれてひーひー言ってるんだしさ。これで惚れてなかったらやばいよな」
 またかと言いたいのか、いい加減にしろと言いたいのか、准の吐き出すため息からはその真意は今ひとつ読み取れない。どちらにしても呆れてはいる。
「俺が知るかって。んなこと自分で考えろ。俺に聞くな」
「やる気ねぇなあ。お前にだってめっちゃくちゃ関係あることじゃん。俺がお前に惚れてようが惚れてなかろうがどっちでもいいわけ?」
「仰るとおりどっちでもいいね。関係ない。つまらないことを聞くんじゃない」
 何だか知らないが面白くなくて食ってかかっても、准は一向に相手にしない。俺がこうやって意味不明なことでぐちぐち絡むのに、いい加減もう慣れっこだからだ。
 本当にどちらでも良いと思っているのかも知れない。現に准は望むものをすべて手に入れているのだから。
 即ち俺の身体も俺の心も日常も、俺が今生きていることで生じるあらゆる現象に准は関わっている。直接的、間接的に関わらず。
 俺が腹を切り裂いて自分の内臓を捲って見ないのは、代わりに准がそこを知っているからだ。そして俺がそんな恐ろしく馬鹿げたことをふと思いついてあまつさえしでかさないように―――――かどうかは知らないが、准はちゃんと定期的、よりも熱心な間隔でもって俺の内部をくまなく検分、点検することを怠らない。

 恐ろしく純然たる意味で、准は俺の中に存在している。
 それがすべてで、それが答えだ。



「なぁ…やっぱ右手貸してくれ。噛むもんないと抑えが効かねぇわ」
 准が笑う。
「いいけど…、右手塞ぐとお前が気持ちよくねぇよ? 左はあんまり器用じゃねぇし」
 問題が根本から違うことで困った顔をする。与えること自体、准にとっては何でもないことなのだ。例えば自分が与えてやりたいと思うことが奪われることには躊躇するとしても。
「…なんでお前は、そんなに気前よく俺に色々くれちゃうわけ?」
 訊くと、准はコイツ馬鹿じゃないのか、とでも言いたげな顔つきで、
「見て解らない奴は聞いても解らない」
 と嘯く。
 だから俺もそれ以上訊かずにおくことにした。



end


 必要とするってなんでしょうね。てなことを考えて書いたらこんなのが出来た。
 …まだまだやね。(一応関西人)しかも変癖アリ。微妙〜。
「BEDROOM JUNGLE」とのリバシ、ちょうど対極に位置する意味合いの話。あっちが進んだらこっちも進む、みたいなペースでぼちぼち行ければいいかなーと。実はとっっっても好きなんです、いっそ不謹慎なくらいのこういう曖昧さ。ちょっとじゃなく受けがバカっぽいけど。(微笑)
 そして読後タイトルに向けて「ドコが〜?」とツッコんだアナタは大変正解です。合掌。

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