「あ、すげー。珍しく早く帰ってる」
「あ…おかえり。今日はちょっと早よ終わったから」
「スタジオ?」
「プロモで一日都内のストア回り」
「営業ですか。そりゃがんばったな、えらいぞ」
「アホ」
「そうそう、ちょうど良かった。これやるよ。ほい」
「どうしたん、コレ…?(まったでかい花束やな…)」
「今年はすげぇ出来が良いんだって。あんまり綺麗だからつい、な」
「………どういう風の吹き回し?」
「地下鉄の降り口の東側に新しい花屋が出来てんの、知らない?」
「知らん、っていうか最近地下鉄乗ってへんから。事務所のバンしか乗ってへん」
「そういやそうだよな。移動時間まで使ってミーティングってか? なんか冗談みたいだな」
「車で移動が多なって、ちょっとツマラン」
「ナニ贅沢言ってんだよ。そんだけ時間節約しなきゃなんないくらい忙しいんだろ? 売れてきた証拠じゃん」
「なんやけど…」
「けど?」
「………………」
「言えよー。言っちゃえよー。すっきりするぞー」
「どこ見て言うてんねや。それは花やろ」
「けど?」
「……最近周りがちょっとウルサイ。事務所に知らない女の子が訪ねてきたりとか、FM局の玄関前で待ってたりとか。昨日なんか事務所の向かいのセブン行ったら、後ろに知らん奴が3人くらいついて来てて、すげーびっくりした」
「まぁしょうがねぇよな。追っかけつくのは宿命でしょう。そのうち見慣れて気にならなくなるって。そこらの道だって平気で歩けるようになると思うぜ」
「……なんで? 言い切る?」
「昔っからそうじゃんお前。普通に歩いてるだけですげぇ目立つのなんて、別に今始まったコトじゃないじゃんか。追っかけられるのは単純にお前がその子のこと知らなくても向こうがお前のこと知ってるからで、昔は知らないから追っかけなかったってだけのコトだろ? 変わんねーよ」
「言うと思った…」
「他には? まだまだありそう」
「……(なんで解るんだ?)」
「付き合い長いんで」
「…お前は、どうもない? これ以上忙しなったら、顔見るのも大変になるかもよ。受験もいよいよ本番突入やしな」
「それも変わんねー。俺も今までと同じだし、お前だって同じだよきっと」
「そ?」
「今までだっていろいろあったけど、けっこうなんとかなったじゃんか。寂しいとかさ、つまんねーとかぶちぶち言う前に、俺がやんなきゃなんないことは他にあんだよ。どーしても我慢できなくなったら、文句言う前に速攻会いに行くから。お前はそこにいればいいからさ」
「簡単に言うな」
「お前が難しく考えすぎなんだよ。大丈夫、大丈夫。なんとかなるって」
「(タメイキ)お前って、ホンマ呆れるくらい脳天、気……ん…っ」
「隙あり。いただきました」
「……(花、潰れる…)」
「そこ、黙るとこじゃないっしょ」
「…なんで花買って来たん?」
「へ?」
「花なんか買ってきたことないやん、ここに越してから一回も」
「唐突だねぇ…」
「ええから、なんで?」
「記念日だからだよ」
「………………?」
「何のだ〜?」
「………(こいつホンマにアホかも)」
「すみません、マジメに言います。今日は俺が、お前を、初めて見つけた日、なんです。新宿でお前のライブ聴いたの、確か中1の春休み初日だったんだよな。俺が絶対好きそうな声だからって、飯田さんと正木さんがあの店に連れてってくれたんだよ。うえ、すっっっげ懐かしー」
「…………そう、やったっけ? 全然覚えてない…ていうか、俺に声掛けたのはもっとあとやったもんな」
「そうそう。今朝思い出したんだよな、すげーいきなり。朝起きたら『あっそうだ、今日だ!』って。なんか降りてきたのかな」
「アホか…。というか、ホンマに今日かどうかなんてわからんやん。確かめようもないし」
「や、間違いないと思う。俺そういうことだけは記憶良いから。まぁいいじゃん、一日や二日ずれてたって大した問題じゃないって。重要なのはそんな小さな事まで未だに忘れてないってコトで、さらに重要なのはお前に『逢った』ってコトだろ。な?」
「…………」
「あ、珱さん今ちょっとグラッと来てない?」
「ア」
「…ホ斎?」
「違う」
「コワっ。つうかマジで睨むなよ。小鳥の心臓が縮むぜー」
「…花の名前。アマリリスって言うの。よお覚えとき」
「へぇーアマリリスか、なんか綺麗な名前だな。ぴったりじゃん」
「何に?」
「お前に。店先通りかかった時に似てるなーって思ったの。目を奪われた。なんかやたらでかくて目立つのにすーっとしてて。凛としてるっていうのかな。なんかめちゃくちゃ綺麗じゃん。一目見てあ、俺これ好きだわって、思った」
「早いな」
「ひとめぼれ、けっこう得意なんで」
「…………ア」
「……ホいつ、…ゴメンなさい、もう言いません」
「…………」
「んじゃも一回、『あ』」


「…リガト、な」


「こちらこそ、これからもどうぞよろしく、…なんてな」


「アホ斎………」




end



…………珱さん、台詞にすると「…………」多すぎ。こういう、会話の間が異常に長い人たちの会話形式は無謀でした。(苦笑)しかも『電話で会話』の『電話』部分がすっかり抜け落ちました。うああゴメンなさーいっ。実はアマリリス開花は通常五月だし…。温室咲きなの! そうなの! いっちゃんがシアワセだから、それで許してくださいませ。
渉さん、リクエストいただいてアリガトウございました! (涙を振りまきつつ退場)

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